ご挨拶

梅村 淳

第64回日本定位・機能神経外科学会

会長 梅村 淳

順天堂大学 脳神経外科
運動障害疾患病態研究・治療講座 教授

このたび2025年2月7〜8日に東京浅草で第64回日本定位・機能神経外科学会を開催します。このような伝統ある学会の会長を拝命し、大変光栄に存じますと共に大きな責任を感じております。順天堂大学脳神経外科としては今回が初めての開催になりますが、過去には第4回(1965年)、第18回(1979年)に順天堂神経学教室の楢林博太郎先生が本学会を開催されていることから順天堂大学としては3回目の開催となります。

近年の定位・機能脳神経外科領域には目覚ましい進歩があります。定位脳手術においてはMRIを用いた直接的画像誘導手術に生理学的評価法である微小電極記録を組み合わせて行う方法が主流となり、コンピュータ技術の進歩により種々の手術プランニング用ソフトウェアも開発され、手術は従来に比べて格段に容易になり精度や安全性も飛躍的に向上しました。従来の破壊術と比べて安全性が高く調節性があるDBSの急速な普及に伴い新たな機能を有するDBSデバイスも次々に登場しました。適応疾患も従来のパーキンソン病をはじめとする運動障害疾患のみならずてんかんや精神疾患、認知症などその他の疾患に対してもDBSが適用されるようになりました。さらに新たな治療モダリティーとして集束超音波(FUS)や凝固術の再興、その他のデバイスを使用した薬物療法なども登場し、個々の患者さんに最も適した治療法を選択する必要があります。このように定位・機能脳神経外科領域においては常に勉強して新しい知識を身につける必要があり、そのためにも本学会は非常に重要な役割を担っています。

今回の学会のテーマは“Pearls and Pitfalls”としました。“Pearls”というのは臨床経験が豊富な医師から得られる貴重な助言やヒントのような意味です。一方、“Pitfalls”はまさにその言葉通りで、あまり派手さの無い定位・機能神経外科手術ではありますが、そこには常に多くのPitfallが潜んでいます。今回の学会では一施設であまり多くの症例を経験できない定位・機能神経外科手術における“Pearls”や“Pitfalls”を会員の先生方で共有し、参加した先生方が、「役に立った」「参考になった」と思えるような学会にしたいと考えてきました。今回は幸いにも160題にも及ぶ多くの演題をご応募いただきました。10のシンポジウム、17の一般口演のセッションに加えて、特別講演、特別企画、合同教育セミナー、共催セミナーなど非常に充実したプログラムを構成できたと自負しております。

特別講演は2名の先生にお願いしました。順天堂大学脳神経内科教授の服部信孝先生には「パーキンソン病治療の未来」についてご講演いただきます。服部先生は本邦におけるパーキンソン病の臨床、研究における第一人者であることは皆さんご存じの通りです。

京都大学iPS細胞研究所教授の高橋淳先生には「iPS細胞を用いたパーキンソン病治療」についてご講演いただきます。この治療は患者さんのみならず、我々機能神経外科医もその効果に大きな関心を持っています。京都大学で行われた治験では予定の7名の患者さんの細胞移植は完了し、2023年末には経過観察も終了しているということですので、今回はその治験結果についてお話しいただけるものと期待しています。

海外からは2名の先生を招聘します。米国コロンビア大学のGordon Baltuch教授は、これまでに1500例以上のDBS手術を手がけるとともに、最近では主にFUSを中心に世界中からやって来る患者の治療を行っておられ、米国で最も臨床経験豊富な機能的脳神経外科医のお一人です。私にとっては定位脳手術を一から教えていただいた特別な恩師です。今回は本学会のテーマにちなんで重篤な合併症を起こした外科医がそれをどのようにして乗り越えていくかについてご講演いただくとともに、ランチョンセミナーではFUSに関するご講演をいただきます。

英国ケンブリッジ大学のValerie Voon教授はニューロモデュレーションに関わる精神科医です。これまでにDBS後の精神症状などに関して多くのお仕事があります。Voon先生には精神疾患に対するニューロモデュレーションの海外での現状について特別企画でご講演いただくとともに、合併症に関するシンポジウムにおいてSTN-DBS後の精神的問題についてもご講演いただきます。

その他3題の特別企画を用意しました。特別企画1は「精神疾患に対するニューロモデュレーションの現状と本邦における課題」です。精神疾患に対するニューロモデュレーションは本邦では未だに行われておらず海外に大きな遅れを取っています。それを打開するための方策や今後の進め方について精神神経学会理事長の三村將先生にご講演いただき、意見交換の場を設けます。

特別企画2は「経験豊富な術者から学ぶ定位・機能神経外科手術のピットフォール」で、本学会において私が最もやりたかった企画です。通常はあまり話したくない手術における合併症やピットフォールについて、あえて経験豊富な術者に語っていただき、その経験を共有することを目的とします。多くの教訓的なお話しを聞けるものと期待しています。

特別企画3は「海外で学ぶ機能的脳神経外科 - 留学のススメ -」です。本邦では定位・機能神経外科は比較的マイナーな領域であり、海外で学ぶ機会も多くなっています。今回実際に海外で学んだ先生方から、留学に至った経緯、必要な資格やポジションを得る方法、研修内容、学んだことを現在どう生かしているかなどについてお話しいただきます。

盛りだくさんでかなりタイトなスケジュールになっていますが、是非とも多くを学んでいただき、実りある学会になることを願っています。一部の先生方には無理を言ってご講演をお願いしましたが、どの先生方もご快諾いただき、この場を借りて御礼申し上げます。

今回の開催地である浅草は東京でも最も人気の観光スポットの一つでもあり、現在でも江戸の下町風情が残されている街です。十分に余裕を持ってお越しいただき散策などを楽しんでいただければと思います。是非とも多くの先生方の参加を心よりお待ち申し上げます。

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